遺産分割とは
相続が開始(被相続人が亡くなられたとき)された時点では、遺産は相続人全員での共同所有となります。
その後3ヶ月の間に「相続放棄」「限定承認」の手続きをしなければ、自動的に「単純承認」したことになり相続人が確定します。
遺産分割とは、この共同所有となっている遺産を、確定した相続人でそれぞれ分割する手続きのことです。
遺産分割の期限
「遺産分割」はいつまでに行わなければならないという期限はありません。
ただし、税法上では相続税の申告期限があり、相続の開始を知った翌日から10ヶ月以内となされています。
配偶者税額軽減制度などの優遇を受けるためには、この申告期限内に遺産分割を終わらせておく必要があります。
また遺産分割されていない遺産は、処分したい場合などは相続人全員の同意が必要となります。
その為、遺産分割を禁止した方が実益がある場合以外は、相続の開始後はできるだけすみやかに遺産分割したほうがよいと言えるでしょう。
遺産分割の禁止
特に禁止する理由や実益が伴わない場合には、速やかな遺産分割をお勧めしますが、遺産分割を禁止したほうが良いケースや、遺言により遺産分割を禁止する場合もあります。
遺言による遺産分割の禁止
故人(被相続人)の意思により、5年以内の期間を定めて遺産の一部もしくは全部を分割禁止とする事ができます。
ただしその場合は必ず遺言によって行わなければなりません。たとえそのような意志があったとしても「遺言」以外では認められませんのでご注意して下さい。
相続人の協議による遺産分割の禁止
例えば、相続人の中に若年者がおり、判断力がつく年齢まで遺産分割協議を待ちたい時や、分割協議を開始すると相続紛争が深刻化するときなどに、相続人全員が合意することで遺産分割を禁止することが可能です。
期間は5年を超えない期間ですが、更新することも可能です。
家庭裁判所の審判による遺産分割の禁止
「特別な事由」がある場合には、家庭裁判所が審判により、期限を定めて遺産の全部または一部を分割を禁止する事ができるとされています。期間は5年を超えない範囲となります。
「特別な事由」とは、例えば相続する財産や相続人の範囲が定まらないなどの、遺産分割協議に入る前提に争いがあり、その解決までに時間がかかる場合(訴訟による判決が出るまで)などです。
家庭裁判所の調停による遺産分割の禁止
相続人の間で遺産分割協議がまとまらない時に、家庭裁判所に分割禁止の調停を申し立てることによって、5年を超えない範囲で期間を定め遺産分割を禁止することができます。
遺産分割の種類
相続財産には、現金以外にも土地・建物などの不動産や、宝石や貴金属などの動産、株式証券などの有価証券など分割が難しい物なども含まれます。
それらを遺産分割する場合には、主に「現物分割」「換価分割」「代償分割」のいずれかの方法により分割されます。
現物分割
相続財産が預貯金などの現金のみの場合や、現金以外の不動産や有価証券などを換金せずに、そのまま分割する方法です。
例えば相続人が3人だとして、相続財産が現金の他、土地と株式証券とあった場合に、一人に現金、一人に土地、一人に株式証券というような形で分割します。
換金する手間がないので手続きなどが簡単になるメリットがありますが、相続人ごとに差が生じる可能性が高くなるため、争いの種となってしまうデメリットもあります。
換価分割
不動産や動産、有価証券などを全て売却して、相続財産を全て現金化して分割する方法です。
現金を分割するので、平等にできるメリットは有りますが、売却に時間がかかる場合や、人が住んでいる土地の場合は借地権の問題等が発生する可能性があります。
また注意点しなければならないのは、不動産を売却した場合、相続人全員に譲渡所得税が課されることです。
代償分割
遺産分割協議において、最も争いが起こりやすいのが代償分割です。
相続人のなかの一人が土地などを現物で相続する代わりに、他の相続人との差を代償金として現金を支払う方法です。
この場合、相続人全員が納得できれば、土地などを売却せずに済むため一番良い方法に思えますが、その土地の評価額や、税金の支払いなど全員が納得できる金額の算出が難しいため、争いに発展しやすいのです。
この場合はやはり遺産相続に精通した弁護士に相談することが、解決の近道だと言えるでしょう。
遺産分割の種類
遺産分割にあたり、相続人の間で公平を図るための制度です。
一部の相続人のみが、故人(被相続人)より生前に特別の利益を受けていた場合(生前贈与)、「特別受益」として、相続財産の総額に加算し遺産分割を行ないます。(遺贈の場合は相続開始時の相続財産に含まれますので加算はしません。)
また一部の相続人のみが故人(被相続人)の財産形成に貢献していた場合などに、その分を「寄与分」として、貢献した相続人が相続し、寄与分を差し引いた額を相続財産の総額として遺産分割を行ないます。
特別受益
一部の相続人が、被相続人から生前贈与や遺贈を受けていた場合に、法定相続どおりに遺産分割すると、生前贈与や遺贈を受けていない相続人に不公平が生じてしまいます。その為、生前贈与や遺贈の分を相続の前渡しとして扱い、相続額を計算します。
ただし、被相続人が遺言などで特別受益の持ち戻しをしないという意思表示があれば、それに従い特別受益の持ち戻しは免除されます。
例
被相続人が亡くなり、妻(配偶者)、長男、次男の3人が相続人です。
遺産は4,000万円で、妻は600万の遺贈を、長男は住宅資金として1,000万円の生前贈与をうけていました。
生前贈与や遺贈分を特別受益としない、
または被相続人の遺言等により特別受益の持戻しが免除される場合
- 妻 :
(4,000万-600万)×1/2=
1,700万+遺贈分600万 - 長男:
(4,000万-600万)×1/4=850万 - 次男:
(4,000万-600万)×1/4=850万
特別受益を相続とみなして遺産分割する場合
- 妻 :
(4,000万+1,000万)×1/2-600万=
1,900万+遺贈分600万 - 長男:
(4,000万+1,000万)×1/4-1,000万=
250万 - 次男:
(4,000万+1,000万)×1/4=1,250万
寄与分
一部の相続人が、被相続人の財産形成に貢献していた場合に、法定相続どおりに遺産分割すると、貢献した相続人に不公平が生じるため、貢献分を寄与分として算定し、相続財産から寄与分を差し引いた額を相続財産の総額として遺産分割する制度です。
寄与分は相続人のみが主張できます。例えば内縁の妻などは法定相続人になりえないため寄与分の主張はできません。
寄与分の額は、原則として相続人全員の協議により決定します。
協議で決まらない時は、家庭裁判所に調停・審判を申し立てます。このうち、審判の申し立ては遺産分割の前提問題ですので、あらかじめ家庭裁判所に遺産分割審判の申立てがなされている必要があります。
例
被相続人が亡くなり、妻(配偶者)、長男、次男の3人が相続人です。被相続人は事業を行なっており、長男は被相続人とともに事業を支えていました。遺産は4,000万円で、協議により長男の寄与分は800万円となりました。
寄与分を遺産分割に含めない場合
- 妻 :4,000万×1/2=2,000万
- 長男:4,000万×1/4=1,000万
- 次男:4,000万×1/4=1,000万
寄与分を遺産分割に含める場合
- 妻 :
(4,000万-800万)×1/2=1,600万 - 長男:
(4,000万-800万)×1/4=
800万+寄与分800万円 - 次男:
(4,000万-800万)×1/4=800万