遺留分侵害額請求権

遺留分侵害額請求とは

被相続人は、原則として贈与や遺言により自分の財産を自由に処分したり、遺したりすることができます。しかし、法定相続人の権利を守る必要もあるため、あまりにも相続人に不利益な事態を防ぐため、民法では、最低限の取り分を保障し、遺産の一定割合の取得を相続人に保証する「遺留分」という制度が定められています。つまり「遺留分」とは、被相続人が遺言によっても自由に処分できない、一定の範囲の法定相続人に対して最低限残さざるを得ない遺産取得分のことです。

例えば、遺言が配偶者に全く遺産を相続させない内容である場合、後で説明する通り、配偶者は遺留分権者ですので、この遺言は配偶者の遺留分を侵害していることになります。

遺留分侵害額請求をするかしないかは自由ですが、遺留分を確保したいというのであれば、他の遺留分を侵害されていない相続人などに対して遺留分侵害額請求を行うことになります。

遺留分侵害額請求ができる人

遺留分は、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められます。具体的には、配偶者・子ども・両親です。ケースによっては、被相続人の祖母、祖父、曾祖父母などの直系尊属、子を代襲相続した孫、まだ生まれていない胎児にも遺留分が認められることがあります。

逆に、遺留分侵害額請求ができない人は、兄弟姉妹、相続放棄した人、相続欠格者や相続廃除された者です。このほか、遺留分の放棄をした場合も、遺留分侵害額請求をすることはできません。

なお、遺留分を放棄した人の代襲相続人も、遺留分侵害額請求ができません。この場合、代襲相続人は、遺留分を放棄した人の地位をそのまま引き継ぐからです。

遺留分の放棄

被相続人の死後に遺留分の放棄をする場合は、単に他の相続人との間で話し合いをして遺留分の請求はしないことの確認をすることで、遺留分の放棄ができます。

他方で、被相続人の生前に遺留分の放棄をする場合、遺留分を有する相続人自身が家庭裁判所に遺留分放棄の申立てをして、審判を受ける必要があります。

遺留分侵害額請求の
方法・期限について

民法では、遺言により相続人の相続割合を自由に決定することを認めていますが(902条1項)、その但し書きでは、「ただし、遺留分に関する規定に違反することができない」と規定しています。もっとも、遺留分を侵害する遺言であっても無効とはならず、遺留分を侵害された遺留分権者による主張がない限り、遺言の通りに相続することができるのです。この遺留分を請求することを「遺留分侵害額請求」といいます。

遺留分侵害額請求は、後の争いをできる限り回避するために、配達証明付内容証明郵便により行うのが普通です。遺留分侵害額請求がなされると、他の相続人は遺留分について、請求者に引き渡さないといけません。遺留分侵害額請求は相続人が個々人で行わなければならず、この権利を主張した人だけが自分自身の遺留分を取り戻すことができます。

遺留分権利者が相続の開始および減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から、1年以内に行使しなければ時効となり消滅してしまいます。

遺留分侵害額請求の相手方

遺留分侵害額請求をする相手方が複数いる場合、受遺者全員を相手にその目的物の価格に応じ按分した遺留分侵害額請求を行います。

共同相続人に対する遺贈がある場合、遺贈の目的の価格のうちその共同相続人の遺留分を超える部分のみが按分計算の基礎になります。そうしないと、遺留分侵害額請求を受けた共同相続人はそれにより遺留分を侵害される可能性が有り、そうなれば遺留分侵害額請求を繰り返すことになってしまうからです。

遺留分の割合

遺留分の割合は、法律で決まっています。

  1. 直系尊属だけの場合:
    被相続人の財産の3分の1、
  2. それ以外の場合:
    被相続人の財産の2分の1が遺留分の割合となります。

具体例

(1) 配偶者のみ

配偶者の遺留分は、被相続人の財産の2分の1ですので、
財産が1,000万円であれば、遺留分は、1,000万円×1/2=500万円となります。
遺言の内容が配偶者の遺留分を侵害している場合、例えば、配偶者の相続分が300万円であれば、配偶者の遺留分を侵害して取得している者に対し、200万円を請求できます。

(2) 配偶者と子供

配偶者と子供が相続人である場合の配偶者、子供の法定相続分は1/2ですので、
配偶者の遺留分は1/2×1/2=1/4
子供の遺留分は1/2×1/2×11
(子供の数)
となります。

(3) 配偶者と直系尊属

配偶者と直系尊属が相続人であるとき、
配偶者の相続分は2/3、直系尊属の相続分は1/3ですので、
配偶者の遺留分は1/2×2/3=1/3
直系尊属の遺留分は1/2×1/3=1/6
となります。